『ストーカー』(原題の『路傍のピクニック』のほうが私は好きです)ですっかりストルガーツキイ兄弟に惚れてしまって、彼らについて調べたり彼らの著作のサンプルをKindleでいろいろ(日本語だと『ストーカー』しか無いので英訳を)ダウンロードして読み比べたり図書館に彼らの本を借りに行ったり古本屋さんで注文したりしていたら、歯医者さんの定期健診の予約入れてたのをど忘れしてすっぽかしてしまいました。反省。
『ストーカー』には本当に、脳みそを10トントラックではね飛ばされたような衝撃を受けました。
寝食を忘れる勢いで小説にのめり込んだのなんていつ以来だろう。嬉しいです。
図書館で借りて昨夜ちょっと読んでみた『みにくい白鳥』は、これはすごく「ロシア文学」だなあとは思うものの、まだ「ストルガーツキイ文学」にはなりきっていないような...という印象を受けました。それでもところどころハッとする箇所があるし、好きな雰囲気なので古本屋さんで注文しました。
“つまるところ、皆さんは、髭も剃らず、気性が激しく、のべつまくなしに酔っ払っている男だって、誰もが愛さずにはいられない、握手することが名誉と思うような立派な人間でありうるということ、なぜなら、その男が、考えるも恐ろしいような地獄をくぐり抜けてなお人間であり続けたからであるということが分かっていないのだと思います。皆さんは、私の本の登場人物が一人残らず汚らわしい屑だと思っているようですが、そのこと自体はまだたいしたことではありません。だが、皆さんは、登場人物に対する私の態度が、皆さんの態度と同じだと考えている。これはもう悲劇です。どうしてかというと、私と皆さんがお互いに理解し合えないということを意味して...”
『みにくい白鳥』の主人公である作家のヴィクトルが講演会で述べた上の言葉はそのまま、『ストーカー』を書いたストルガーツキイ兄弟の作者としての姿勢の表明とも読めて興味深いです。
あともう一冊、ストルガーツキイ好きとしてはこれは絶対薦めたくなるらしい『蟻塚の中のカブトムシ』も注文。
でもこれを読むのは、今書いてる本が書き上がるまでお預けにします。読み始めたら止まらなくなって頭がいっぱいになることは目に見えてるので。
早川文庫の『ストーカー』はスタニスワフ・レムの『泰平ヨン』シリーズや『宇宙飛行士ピルクス物語』の訳者と同じ深見弾さんなのも嬉しかったです。この人の訳は頭にも心にもスッと自然に入ってきてくれて、長時間の読書がぜんぜん苦にならない、どころか「本を読んでる」ことすら忘れさせてくれます。
ところどころ「ん?」となる箇所はあるものの、それを埋め合わせて余りある名訳。
「ん?」となる箇所、というものの一例としては、具体的には、レッドがキリールに「中身の詰まった空き缶(英訳だと“a full empty”)」をいくらでなら買えるのかと聞かれて、
“どこから都合をつけてくるんだ───外人の、しかもロシア人の専門家からだろうか?”
と思う箇所。
いきなり誰だよロシア人の専門家って、と面くらいながらも、これはこのあとで出てくる新しい登場人物の伏線なのかな?と思って読み進めてみたもののそんな人は出てこずじまい。
この部分の英訳をKindleのサンプル版で読んでみたところ、そうではなくて、これは「ロシア人の科学者がどこからそんな大金を都合つけるんだ」とレッドは思った、という場面。つまりロシア人の専門家というのは、キリール本人のことを指していたのでした。よく分からなかった箇所が分かってスッキリ。
こんなことばかりしてるから歯医者の予約忘れるんですよね。予約入れ直しの電話忘れないようにしないと(今日は休診日で電話がつながりませんでした)。